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THINK BLANK - マイクロ波試料前処理操作における汚染

はじめに

無機元素分析における試料前処理法のひとつであるマイクロ波試料前処理は、密閉容器内で酸試薬により固体試料を分解処理する方法です。その処理途中において酸蒸気ならびに金属元素は常に密閉容器内に滞留されるため、高温高圧条件下にて目的元素が損失することなく、サンプルを完全分解することができます。
しかしながら、マイクロ波試料前処理を含む一連の前処理操作における懸念事項のひとつに、外部汚染リスクが挙げられます。特に、ICP-MSに代表される極微量元素を測定するケースでは、最終的な測定値に大きな影響を与えるため、前もって汚染原因の推定と対策を検討する必要があります。
本件では、試料前処理操作における汚染原因例とその回避策について紹介します。

主な汚染原因

試料前処理操作における汚染原因として、以下の項目が挙げられます。

  • TFM分解容器からの汚染
  • 使用器具からの汚染
  • 操作者からの汚染
  • 装置設置環境

これら汚染は、総じて測定値に対して正の誤差を与えるため、見込み値に対する回収率が100%を超える、本来含有されていないはずの金属元素が検出されるなどの影響が懸念されます。
また、これらの要因が複合的に重なって測定値に大きな影響を与える場合も想定されるため、実際の前処理操作全体を包括して汚染原因の把握と作業改善を行う必要があります。

1. TFM分解容器からの汚染

マイクロ波試料前処理装置に採用されるTFM分解容器は、試料前処理操作後に適切な洗浄操作を行い、容器の状態を管理してください。Milestoneは、使用後の容器洗浄方法として加熱酸洗浄を提案しています。容器に酸試薬のみを投入してマイクロ波処理プログラムを実行し、容器内部全体を高温の酸試薬によって洗浄します。このときの洗浄には主に濃硝酸(HNO3)を用いますが、直前のサンプル組成や、次サンプルの測定対象元素に応じて別試薬を都度選択することも可能です。
また同一容器を用いて、異なるサンプルを繰り返し処理した場合、直前に実施したサンプルの付着が次サンプルの分解液への汚染となるため、処理のたびに洗浄操作を行うことや容器の使用履歴を管理することで、容器由来の汚染原因を把握し、低減化させることが可能となります。 また多孔質材料であるTFM分解容器は、繰り返し使用に伴って、細孔部分にサンプル残渣や酸試薬、微量の金属元素などが沈着しやすくなります。この場合、容器へのメモリーによる汚染、容器の劣化度合いのバラつきなどが懸念されます。従って、容器は使用のたびに必ず洗浄することでサンプルや金属元素の付着を除去できるとともに、定期的なメンテナンス操作によって、蓄積した酸試薬を除去することで個々の容器の状態を整えることが汚染排除に対して有効であると考えます。

2. 使用器具からの汚染

様々な器具を使用して試料前処理操作を行うとき、特に、対象サンプルや酸試薬と接触する器具から汚染に注意します。金属元素分析では純金属またはセラミックス製器具の使用は避けるとともに、B,Si,Na,Al,Kなどを分析する場合にはガラス製器具からの汚染も考慮してください。
フッ化水素酸(HF)を用いる酸分解処理には、ガラスや石英製器具は使用できないため、代わりにプラスチックまたはフッ素樹脂製器具を使用します。
プラスチック製器具の場合には、新品であっても極微量の金属汚染が考えられるため、事前洗浄したのちに使用することを推奨します。
また、乾燥した時期やエアコンなどの気流が強い室内環境下では、静電気の発生によって、プラスチックやフッ素樹脂表面に埃や粉末状サンプルなどが付着しやすいため、静電気除去装置の併用や異物付着の有無を目視確認することを推奨します。
また酸試薬の純度・グレードは、測定対象元素や目的濃度に応じて選択します。微量元素分析向けの試薬は、フッ素樹脂またはプラスチック製ボトルにて供給されるため、ほうケイ酸ガラス由来の元素を測定する場合に有用となります。
高純度試薬を取り扱う際には、ボトルに直接ピペット等を挿入せずに、小分け瓶に取り分けたうえで使用することが望ましいと考えます。

3. 操作者からの汚染

試料前処理操作を行う上では、作業者は保護具の着用が必須です。保護具は酸試薬や蒸気から作業者を守るとともに、作業者からサンプルへの汚染を防止する効果があります。操作者からの汚染例として、皮膚由来のNa,K,Ca、化粧品や装飾品由来のMg,Al,Si,Ti,Agなどが挙げられます。できる限り素肌を露出させないように保護具を着用することは、操作者からの汚染を防ぐことになります。
また、同じ手袋を長く着用した状態で色々な操作を行うことでも、各試験器具や実験台などの汚れが手袋表面に蓄積されている恐れがあります。従って、着用中は必要なもの以外との接触を避け、操作ごとに新しい手袋に取り換えることで、汚染を最低限に抑えることができます。

4. 装置設置環境

頻繁に人が出入りする部屋では、室内空気中に100µm未満の浮遊粒子が大量に存在します。前処理を行う際の諸動作によって、浮遊粒子が巻き上がり、汚染を引き起こす可能性が考えられます。
そこで、微量元素分析操作をクリーンルーム内で一括して行うことも外部汚染を回避するために有効です。また、たとえクリーンルームでなくとも作業環境を見直して改善することで、できる限り汚染を軽減させることも可能と考えます。
部屋の出入り口に防塵マットや静電気除去シートを設置するなどの工夫や、日常からドラフト設備や試薬棚、実験台などを整理整頓しつつ、十分な作業環境を整えたうえで分析操作を行うことも重要です。特に、酸試薬を保管する試薬庫が経年劣化により錆びている、実験台に器具が散乱しているなどが無いように、日々の室内管理に留意してください。

まとめ

以上の内容を皆様の分析業務にお役立て頂ければ幸いです。また汚染原因や対策について、詳細に記載されている書籍をご紹介させて頂きます。
ご興味がある方はお問い合わせください

【参考書籍】

1) THINK BLANK -Clean Chemistry Tools for Atomic Spectroscopy
R. C. Richter, J. A. Nóbrega, C. Pirola

 

ドキュメント

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