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マイクロ波分解関連

マイクロ波試料酸分解法における処理温度と時間の設定

はじめに

無機元素分析における試料前処理法のひとつとして、マイクロ波を利用した加熱処理法が知られています。マイクロ波酸分解法を実施するうえで、実験者は対象試料の酸分解に対して最適な条件で処理を実施することが重要となります。
本件では、マイクロ波酸分解度合いの良し悪しを左右する、処理温度と処理時間の設定について紹介します。

処理温度

Milestone社製マイクロ波試料前処理装置は、分解容器内に挿入した熱電対式温度センサーによって計測された溶媒温度、または非接触式赤外線温度センサーによって計測された容器外壁温度を制御パラメータとして、マイクロ波照射処理を行います。固体試料を酸試薬によって効率よく溶液化するためには、高温条件下での酸分解処理が非常に重要です。さらに密閉容器を用いることで、酸試薬の沸点を超える温度に加熱することが可能となり、常圧加熱法に比べて高い分解能力を有することが特徴です。 ただし高い処理温度であるほど、容器内部圧力や熱による密閉容器への負荷も高まることが考えられます。その際、処理途中での酸蒸気漏洩や、容器破損の恐れがあるため、サンプル組成によって適した前処理条件を選択する必要があります。

ここで、各種サンプルごとの酸分解処理温度の目安を右記に示します。例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)や炭化ケイ素(SiC)などの高い耐熱性を有する無機素材を完全溶液化するためには、高温域での処理を必要とします。
また、プラスチックや石油製品などの芳香族化合物や高分子材料では、酸化性試薬を用いた高温処理が必要となります。
一方で、同じ有機化合物であっても飲料や生鮮野菜のように水分を多く含むサンプルでは200℃未満の温度条件で容易に分解処理が可能です。このように、サンプルの組成や構造によって、適正な処理温度を判断することが可能です。

Fig.1

処理時間

試料酸分解処理において、溶液化反応を進行させるためには安定した高温条件下で一定時間処理を行う必要があります。Milestone社製マイクロ波試料前処理装置の主な処理プログラムは、まず常温から目的温度まで昇温段階、および目的温度を保つ維持段階の2つのステップで構成されます。
上述のとおり、維持時間はサンプルの分解度合いに大きく影響を与えるため、難分解性試料ほど長時間の処理を要します。例えば、難分解性試料専用ローターNOVA-8を用いたアプリケーションでは、炭化物や窒化物などのセラミックス材料に対して1時間以上の温度維持を提案します。
一方、プラスチックや油脂などの有機化合物サンプルでは、有機化合物の酸分解処理に有効なセグメンテッド高圧ローターHPR-1000/10を用いて1時間以内で完全溶液化が可能となります。
なお処理時間を延長してもサンプルが完全溶液化されない場合には、他要因(処理温度、酸試薬、サンプル量など)を変更検討する必要があります。
長処理時間を要するプログラムは、繰り返し使用に伴って分解容器への熱負荷を与える恐れがあるため、容器の状態管理に注意してください。

具体事例の紹介

処理温度によるサンプル分解度合い

まず処理温度を変更したときのプラスチック試料の分解度合いを示します。高温処理ほど残渣のない無色透明の分解溶液が調製されることが確認されました。

Fig.1

特に高分子有機化合物を酸分解する場合、処理温度が低いと有機化合物自体の残渣や、分解液の白濁、注水時の白色沈殿などが顕著に生じることが考えられます。
また、同じく炭化ケイ素認証標準物質(NMIJ CRM 8001-a *α型 0.20g)を処理したとき、処理温度によって、分解度合いに大きな差が確認されました。

Fig.1
処理時間によるサンプル分解度合い

次に、無機化合物試料を240℃条件下で処理したとき、温度保持時間によって分解度合いに大きな差が生じることが確認されました。240℃に達した時点では大量のサンプルが残存していましたが、保持時間が長くなるほど残存量は減少することが確認されました。

Fig.1

従って、高温雰囲気を長く保持することは、サンプルの酸分解反応がより進行されるといえます。

まとめ

Milestone社マイクロ波試料前処理装置における処理プログラムは、サンプル主成分や構造に応じた、処理温度と処理時間によって構築されます。
また、使用する酸試薬の組み合わせも分解度合いに大きく影響を与えます。こちらは別資料『マイクロ波試料酸分解法における酸試薬の正しい選択』をご参考ください。
高温長時間条件での処理はサンプルの分解度合いを向上させる効果が期待できる一方、過剰の温度および長時間処理は容器部品への負担も増すため、使用後には著しい破損や劣化がないことを確認する必要があります。

※弊社では高温高圧条件下での酸分解処理を可能とするマイクロ波試料前処理装置、および各種ローターをご提案しているとともに、各種サンプルに適した処理アプリケーションをまとめた標準アプリケーション集を用意しております。ご興味が御座いましたら、ご一報ください

ドキュメント

技術資料 『マイクロ波試料酸分解法における処理温度と時間の設定(685kB)Adobe Reader アイコン


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