試験試料
本件では植物試料を対象とし、認証標準物質CRM INCT-OBTL-5 (Oriental Basma Tobacco Leaves)を用いた。
前処理操作
マイクロ波湿式分解装置はETHOS One,マイクロ波乾式灰化装置はPYRO SA(ともにマイルストーンゼネラル社製)を用いた。湿式分解法では、試料約0.5 gを密閉型フッ素樹脂製容器内にて硝酸およびフッ化水素酸にて完全溶液化させた。処理溶液に飽和ホウ酸溶液を添加して残存するフッ化水素酸をマスキングさせたのち、超純水にて一定量に定容したものを測定溶液とした。一方の乾式灰化法では、試料約1.0 gを磁性るつぼにて30分間300℃以上の雰囲気下による加熱灰化ののち、塩酸にて溶解された上澄液のみを測定溶液とした。また高温雰囲気下での元素揮散を抑制するために、硝酸マグネシウム六水和物・エタノール溶液を用いた化学修飾剤の効果を検討した。なお、各処理法における繰り返し数をn=5としたとき、一連の前処理工程に要した時間は約90分であった。
測定操作
ICP-MSにより、試料中に含まれるAsおよびCdについて定量分析を実施した。その際の質量数は91AsO,111Cdを測定対象とした。なおAs測定においてはセルガスに酸素を用いた。
湿式分解法
湿式分解時の処理温度を90℃から200℃まで変化させたとき、より高温条件では処理後に含まれる未分解残渣量が減少することが確認された(Fig.1)。特に酸試薬の沸点(硝酸b.p.=121℃)以上では試料は完全溶液化されており、試料と酸試薬との化学反応がより促進される条件であると考えられる。
乾式灰化法
灰化温度を300℃から900℃まで変化させたとき、化学修飾剤を添加しない場合では、より高温に従って各元素の回収率が低下した。特にAsは全温度条件における回収率が40%未満となった。
一方、化学修飾剤を添加した場合では、CdおよびAsともに温度帯700℃においても90 %以上の回収率が得られた(Fig.2)。化学修飾剤の効果によって、試料に含まれる金属元素が加熱処理時に揮散されず、処理溶液中に溶存されることが確認された。
前処理操作の精度確認
次に、両法による前処理操作~定量分析に関する精度を検証した。各処理にて同日に複数検体(n=5)を処理した結果から算出した繰り返し性(Repeatability)は、相対標準偏差RSD 10 %未満であった。また、5日間連続で同様の処理を行った結果から算出した再現性(Reproducibility)は、RSD 約10 %となった。以上より、両法は汎用的な元素分析における前処理法として充分な精度を有するとともに、前処理操作のクロスチェック手段としても活用できることが示唆される。
技術資料 『マイクロ波を用いた湿式分解法および乾式灰化法における試料前処理効率の研究事例』(427kB)
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